日常。そんな二文字が頭を過ぎる盆休み明けの月曜日。別に仕事に行くことが苦痛な訳ではない。取り立ててブルーになったりもしていない。当たり前の日々が戻ってきただけだ。なんてセンチメンタルぶってみたが、私はそんな繊細な神経の持ち主ではなかったことに気づく朝。
思い返せば、盆休みだからと言って特別に生活に変化はなかった気がする。日常も非日常も境界線は曖昧なままだった。 私はいつものように朝早く起きて犬の散歩に行き、食事の用意をし洗濯物をたたみ、食事をとり、ビールを飲み、そして風呂に入るという日々を繰り返していた。すると、いつの間にか盆は終わっていた。そんな日常をあと何日くらい私は繰り返すことができるのだろうか。残日数がカウントされるようになったら、この日常が尊いと思えるのだろうか。今はまだそんな風に思えない。それはきっと、幸せなことなのだろう。
4日ぶりに7cmのパンプスを履いて家を出た。若干不安定な感じがして、体幹が弱った気がした。たかが4日で。私は弱った下半身に力を入れ、ゆっくりとドアを開ける。愛犬のために冷房を入れている部屋と外との温度差に目眩がした。今日も茹だるように暑い。「夏よ去れ。涼を返せ」と頭の中で銃を構えた。銃口を空に向け、銃を撃つ。銃口から飛び出した万国旗が宙を舞い、ひらひらと顔に日本の国旗が落ちてきて、口紅がベッタリと国旗に付着したところで妄想は終了。今日も元気に仕事に行きますか、と自転車に跨った。暑い中、自転車を漕ぐ。漕いでいる間は風が心地よいが、止まった瞬間に噴き出す汗。あゝ、汗臭い、汗臭い。
有給休暇をとっていたおかげで山積みになっていた書類を片付ける。昼休みに旅行先で買った長崎土産を配った。あ、そうだった。きっちり線引きされた非日常もあったではないか。旅行先で飲むビールは美味かったなぁと思いながら、胃を休めるために朝作って持ってきた昼食用のスープを啜った。長崎で買ったあご出汁が効いていてうまい。8月に入ってからというもの、色んな理由にかこつけてビールを飲み続けてきたが、今日ばかりは休肝日にしよう。私は優しい味のスープに誓った。スープに誓うな、己に誓え。意志薄弱、麦酒最高。
帰宅後、先に帰っていた夫が缶ビール片手にサラミを切っていた。サラミにマヨネーズととろけるチーズをかけてレンチンして食べるらしい。デブの素を食べているなぁ、と美味しそうな匂いをぷんぷん振りまくサラミマヨチーズを横目に夫の誘惑には知らんぷりを決め込んだ。何にも聞かれていないのに、「今日は休肝日だから!」と私は宣言する。初志貫徹。「なんのために?」みたいな顔で私を見る夫。なんのためにかわからない私。さてはて、一体なんのために休肝日にするんだったのだろうか。いや、胃を休めるためである。私はコップに氷を入れて、そこに炭酸水を注ぎ込んだ。炭酸水を口に含む。味は特にしない。しかし、シュワシュワと炭酸が口の中で弾け、喉を滑り落ちる炭酸がピリピリと食道を刺激した。なんだか胃に良いことをした気がする。胃の基本は予防にある。
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