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2026年4月7日

吊り革に掴まっている僕の向かいで、三十歳くらいの男性がITの技術書を読んでいる。
僕のKindleにもまったく読んでいない同じ本が入っている。彼はその本を半分くらいは読み終えているようで、仕事終わりの社内で無為な時間を過ごす僕はささやかな(けれども決定的な)敗北感を味わう。
チラと他人の読んでいる本の中身を見ると、しおり代わりにプリペイドカードのようなものが挟まっている。どうやらQUOカードのようだ。なかなか珍しい。
めちゃくちゃ話しかけたい。「同じ本を読んでいるんですよ(まだ読んでいないけれど)」「QUOカードを挟んでいる人って初めて見ました」「まだ残金あるんですか?」などなど。たとえばこれがセミナーか何かの会場で、たまたま隣に座る人が同じような状況であったら、あまり躊躇もせずに話しかけていたかもしれない。
けれども通勤列車は他人としてしか関わり合えない空間だ。電車の中では恋の始まりも起こるはずがない。親しくなれた可能性を夢想して、僕は最寄駅で電車を降りる。
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誰に繋がるかわからないドキドキハラハラの日記リレー企画、【日記の瞬間】。
日記を書こうと決めて一日を始めると、今まで見過ごしてきたいくつかの瞬間が、書くべき日記の題材として生き生きと立ち現れるような感触があります。
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