「やめてください!」と突然、声がして驚いた。
パートナーとうちから東の方へ出かけようと、急行電車に乗ってしばらく経ってからのことだ。平日昼間の割に混んでいて空いている席がなかったので、ドアと席の間にある壁にもたれかかって立っていたら、気づかぬ間にわたしの右手が座っている人にあたっていたらしい。
あの「やめてください!」はとても強い響きをもった言葉だった。ほとんど叫びに近かった。叫び声を受けとめたわたしの最初の反応は「驚き」だったのだけれど、その次に「そんなに叫ばなくても」と声の主を責める言葉が内心浮かんだことも否めない。でもよくよく考えたら、彼女があんなに強い声をあげざるを得ないほど、きっとわたしの手は何度も彼女の頭にあたっていたに違いない。ほんとうに申し訳ないことをした。もちろん、すぐに謝って手を引っ込めた。
とはいえ、わたしは彼女の頭をわざと触れたわけでもなんでもなくて、ただパートナーとの話に夢中になっていて気配りが足りていなかっただけだ。このことから考えるに、意図したものではないけれど結果的に痴漢になってしまうケースは実際にあるのだろうなと思った。こうして、人はある日とつぜん加害者になってしまうことだってありうる。
帰り道、今日はなんだかやけに視界がぼやけるなと思い、ふと閃いてコンタクトレンズの左右を入れ替えてみたら、やはり入れ間違えていた。わたしは左右の度数にけっこうな差があるのだ。それなのに夕方にならないと気づかないなんて、なかなかに鈍い人間でもあるなと思わざるを得なかった。こういうことは時々あるのだよなと思い、わたしのことだからXでつぶやいていそうだと過去の投稿を「コンタクトレンズ」で検索したら、2022年に同じことをしていた。2021年にも。
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