言いたくないコンプレックスは多々あるが、その中でも比較的軽めの一つが「自分はペーパードライバーである」ことだ。免許取り立ての時期は苦手意識など持っていなかったのに、たまたま運転の機会がない期間が続き、いつの間にやらまったくの素人に成り果ててしまった。その弱点を解消しようと使われていない祖父母の車を運転して、案の定サイドミラーを粉々に破壊してしまったとき、長く続くペーパードライバーの運命が決定づけられたのである。
大学時代の友だちとドライブへ。
といっても集合時間は夜の八時。夜中の食べ歩き(走り)ドライブである。発案者(?)により、夜のラーメン→深夜のクレープ→深夜(から早朝)のカレーという、なかなか胃にハードな旅程が組まれている。
ペーパードライバーの僕にとって、ドライブの最中にできることはにぎやかしの冗談を言い続けることばかりである。が、何も覚えていない。
道中で調べたラーメン屋に着くと、そこは「居酒屋がうまいラーメンを提供している」くらいのニュアンスの店。メニューの先頭には日本酒とそれに合いそうなおつまみが記載されていて、夜の十時近くに、「ラーメン四つ」と頼むには少し罪悪感が出てしまう。それを言い訳に、注文の最後、小さな声で「ビール一つ」と頼む。お酒を飲もうが飲むまいが、ペーパードライバーはどうせ役立たずなのである。
蛤のラーメンが美味かった。それに、店自体が「昭和感」を強く押し出していて、その雑多なビジュアルが左京区を思い出させるようで良い。


その後、パフェを食べに行ったお店がアイスしか売っておらず、泣く泣くクレープを廃した甘い食べ物を口に入れ、申し訳程度に湘南で夜景や星空を眺め、最終目的地のカレー屋に向かう。二時半に閉まるらしいその店に間に合うように車を走らせる(後部座席に乗せてもらう)。
そういえば、湘南は海沿いの道を走っているはずなのに、全く海が見えなかった。視界を遮るように木々が立ち並んでいて、まるでRPGのマップ最果ての様相。湘南の海は夏にしか存在しないのかもしれない。
ともかく、急いでカレー屋に駆け込むと、ここも「居酒屋がうまいカレーを提供している」くらいのニュアンス。内装も先のラーメン屋のように、昭和チックというか、薄暗く赤い照明で照らされていて、壁には数年前のライブのチラシやらが所狭しに貼られている。よくわからないパチンコの台みたいなものがあって、多分に雑多な雰囲気は、やはり左京区を思い出させてしまう。
そこで、話好きの店主が作る肉たっぷりのコッテリとしたカレーを食べる。うまい。蒲田の生まれらしい店主が、かつてあの街はヤバい街だったと語り、それをうんうんと聞いていると、気がつけば四時近く。店を出て、全てのシャッターが閉められた夜の吉祥寺を歩いていると、朝が近づいてくる。始発電車に乗って家に帰り、明日を棒に振ってはならないと、目覚ましを十時にセットして眠りにつく。


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