18時くらいに「今から見る」と家族のグループラインで父親が言う。間髪入れずに『旅と日々』のポスター写真が送られてくる。「行き詰まった脚本家がひとり東北の方へ旅に出る」物語で、つげ義春の漫画を原作にした三宅唱の新作。

映画『旅と日々』公式サイト
三宅唱監督(『夜明けのすべて』『ケイコ 目を澄ませて』)最新作。11月7日(金)TOHOシネマズ シャンテ、テアトル新宿ほか全国ロードショー!《毎日が旅の途中だ》行き詰った脚本家が旅先での出会いをきっかけに、人生と向き合っていく――。
こういう言い方もどうかと思うが、僕は比較的映画とか小説とかに昔から関心がある方で、もちろんこの映画を楽しみにしていたし、先々週の週末に見た。しかし、これもこういう言い方もどうかと思うが、僕が実家にいた頃の父親は映画や小説に関心がある方ではなかった。むしろ「芸術とかわかんないんだよね」みたいなことをよく言って、週末はゴルフや(若い頃は)麻雀に行くタイプの——そんな類型化も好ましくない気がするが——父親だった。
が、僕が大学に行き、父親は長く勤めていた会社を退職して比較的時間に余裕ができると、むかしは金融関連の本と司馬遼太郎(と少しの雑誌)ばかりが並んでいた実家の本棚に、小さく小説の棚ができるようになった。村上春樹の小説が増え、小川洋子の文庫本がその間に挟まる。特に驚いたのは、父親が単行本の『推し、燃ゆ』の感想(あまりよくわからないね)を僕に言ってきたことだ。
どういう心境の変化があったのかはわからないが、昔は関心を持てなかったものに対して興味のベクトルを向けているように思えて面白かった。ただ、久石譲のコンサートに行っても、芥川賞を取った小説を読んでも、大抵は「すぐ寝ちゃったよ」と言う。
『旅と日々』は、まあありていに言って退屈な映画だった。良い映画だとは思う。とはいえ、エンターテイメントかアートかと二分すれば後者に属するだろうこの映画を父親はどう見るのだろうか。週末に家族と会うので、正直な感想を聞いてみたいと思う。


コメント