休日。午前から風呂に入って身体を温める。良い休日になりそうな予感がする。
家にまともな食材がなかったので、昼ごはんは外で食べることにする。通っている喫茶店でサンドウィッチでもつまみながら読書をしようかとも思ったが、歩きながら「生活は凸凹でなければならない」というささやかな信念を思い出す。つまりはどんな些細な一日でも、これまでとは違うことをやってみようというわけだ。
喫茶店を素通りし、その先にあるビストロに行ってみる。確かランチもやっていたはず。それなりに値は張るだろうが、美味いものも食べられるし、記憶に残る昼食になるだろう。半地下のようなところにある重い扉を開けて、いざ入店。堂々と「一人です」と言って、鬼おろしハンバーグとランチセット(サラダ+ライス)を注文する。

ハンバーグはぎゅっと密度があって、肉肉しくて美味しい。多分肉汁がブワッと広がったのだろうが、先んじてポン酢をかけてしまったのでよく見えなかった。
脇に添えられた野菜が美味しい。カブ、ジャガイモ、ナス、カリフラワー、名前のわからないピンク色の乾燥野菜(ドライベジタブルとは言わないだろう)。
野菜用のディップもついていて、とても美味しい。ただ、どこか知っているような味で、色々と記憶を掘り返してみる。インデックスされていない感覚の中から、関係のないエピソードを引き連れつつ、ドンピシャの味を探していく。
味を思い出すのは難しい。手がかりがつかめそうでつかめず、「これだ」と思った記憶も、舌の上で曲がりなりにも再現してみると、全然違った味だったりする。気がつくと、ディップはすでに無くなっている。
「これって何の味なんですかね」と聞いてみようか。聞いちゃうか。恥ずかしいな。でも気になるな。と、あれこれ頭の中で会話のシミュレーションを組み立てた挙句、口をついたのは「ごちそうさまでした」。意気地のない自分にほとほと嫌気が刺しつつ、そのまま喫茶店に向かう。
今日はもう予定がない。真っ当に休日をやるのだ。小説をたくさん読もう。夜まで家に帰らないぞ。外でビールを飲むことだって許してやる。
と、喫茶店に向かう道すがら、あのディップはカレー粉の味だったことに気が付いた。


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