仕事を辞めた同僚が数日前から僕の家に居候している。「えー」と気乗りしない返事をしているうちに押し切られてしまい、主張を貫徹できない僕の弱さに辟易しつつ、彼の押しの強さには見習うべき点もあるなとも思う。
彼は面の皮が厚く、しょっちゅう「押し切られたって言うけどさ、実は君自身が招き入れたのではないのかい?」と言う。そんなことはない。家を無くし放浪するとの話は聞いたが、別に手を差し伸べるつもりなんかなかった。
そんな風だから、流石に家事雑務その他諸々を全てやってもらおうと思い、家に来た瞬間から「俺は厳しくする」と宣言をした。「やれと言われたらちゃんとやること」「俺のことは上司だと思ってもらいたい」と捲し立てる。
仕事から帰ると、夕ご飯のカレーができていた。自炊をする時間がなくなるのは助かる。まあ許してやろうと渋々合格点を出す。
窓の外をチラとみると、そこには干しっぱなしの洗濯物がかかっている。今日は激しい雨が降ったのだ。水をしっかりと吸い込んだTシャツは重く、百円ショップで買った安物のハンガーが不健康に撓んでいる。
彼は「雨なんて水なんだから翌日乾くのを待てばいいじゃん」などと発言する。そんなことではダメなのだ。水回りを軽んじたら悲惨な結末がやってくることを彼は知らないのだ。ここは厳しくあらねばならない。苛立った手で洗濯物を回収し、再度洗濯機にかける。近くのコインランドリーで乾燥させるのがベターだろう。
しかし外はいまだ弱い雨が降っている。行くのが面倒だ。家主としての特権を振りかざし、コインランドリーまでの小出張を彼にやってもらおうと思う。「頼んだ」と彼に言ってみるものの、やはり僕の弱さが出てしまい、行きと帰りで役割分担をすることになる。彼の押しの強さには学ぶべきところがある。
コメント