職場のトイレの蛍光灯が切れかかっている。プツプツとリズミカルに音を立てながら明滅する灯りは、空間の薄暗さと相まってそこはかとない不安を煽り立てているみたいだ。
あんまりホラー映画を好んで見るわけではないが、切れかかった蛍光灯というイメージはどうしても穏やかならざる映画の一光景を思い起こさせる——ような気がしたが、じゃあ僕は一体何の映画のことを考えているのだろう? ホラー映画の雑な印象のようなものが僕の認識を規定しているのなら、これまで僕は一体何を見てきたのだろう? 知らず知らずのうちに自分自身がクリシェの中に押し込められていることに気がついて、ちょっと落ち込んでしまった。映画を端から端まで記憶しなければならない。本だって読んだら一言一句諳んじることができるくらいにならなければならない。少なくとも意気込みとしては。
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