17
2024年10月17日

【運営の日記】消えたカツオを探して

もう十時前だというのに、血眼になって本棚をひっくり返し、地べたを這いずり回っている。

カツオが消えた。消えたカツオを探している。


ちょっと残業をして、程よい疲労とともに帰宅。牛乳を買いにスーパーに立ち寄る。

そのついでに店内をフラフラと歩いていると、美味しそうなカツオが四割引で売っている。冷凍ではなく、生のもの。たしかに見たところ肉質が柔らかいような感じがする。ニンニク醤油につけて食らってやろう。家には昨日作った生姜焼きがあるが、タンパク質をたくさん摂取することに問題はない。

これは残業のご褒美だ。いつもの時間だったら二割引だったに違いない。こういうささやかな喜びを積み重ねていくのが僕は何よりも好きだ。

家に帰り、まずはご飯を炊く。顔を洗い、さっき買った牛乳やらオクラやらを冷蔵庫に入れる。

カツオがない。

落ち着こう。たしかに記憶の中では、レジ袋を玄関先に置いたまますぐに生米を洗い始めた気がする。しかし僕は筋金入りの忘れ物キング、ものを置いたそばからその記憶を忘却することにかけては右に出るものはいない。

つまりはこの部屋のどこかにカツオの切り身が潜んでいる可能性があるわけだ。リュックサックを置きに部屋の奥まで行った形跡もあるから、捜索範囲は部屋一帯に渡ることになる。本棚に財布を置いている以上、棚の中という可能性もありうる。

昔、歯磨き粉が冷凍庫に入っていたことがあった。スマホが冷蔵庫の中で冷え切っていたこともあった(逆でなくてよかった)。知らず知らずのうちに冷蔵庫に入れていたのではないかと疑い、中を覗き見るがカツオの気配はさっぱりない。

スーパーに置いてきたのか。カツオを夢想してニヤニヤと笑っていたそのそばで、あのカツオはカゴの底で静かに助けを待っていたのか。そうなると今からスーパーに戻るのは面倒だし、そもそも確率が低いだろう。

しかし。

よく考えると、カツオが部屋のどこかに潜んでいる方がマズいのではないか。あのカツオは生魚である。四割引になっていたということは、ダメになる寸前ということだ。しばらく経って、部屋の陰から小蠅が湧いて、死臭が薫るようになったら困る。ゴミ屋敷よりひどい。

米が炊き上がるまでの間、血眼になって必死にカツオを探す。クローゼットの中や、旅行鞄の中まで探した。あるわけのない場所でも、そこにカツオが放置されることの危険を考えると探さざるをえない。

米が炊き上がる音がした。カツオの気配はどこにもない。スーパーに置いてきたのだろう。そう信じることにする。

R.I.P.

僕は君が安らかな場所で眠っていることを祈っている。

コメント

タイトルとURLをコピーしました