雨音で目が覚める。最近、折り畳み傘をどこかで失くしてしまったことを思い出し憂鬱な気分になる。この前使ったときは、ちゃんと持ち帰ったような記憶があるのに——とまあ、何かを失くすときは、概してそれを失くした記憶ごと失くしてしまうものだから、これは至極当たり前な気もする。
さて、そんな憂鬱はともかくとして、きちんと傘をさして外出しなければならない。雨粒がきちんと重みを持っているくらいの雨量だし、何よりも今日は出勤なのだ。通り雨に打たれたわけでもないのに、ずぶ濡れで出社するのはまずい。
部屋の中を物色するが、見つかったのは骨組みの部分が折れたビニール傘一本。随分と不恰好な開き方をすることは容易に想像できる。最悪の場合はこれで乗り切ろう。
半ば諦めかけていたが、そういえば、玄関ドアの向こう側に、一本のビニール傘が掛かっていたような記憶が蘇る。おそらく半年ほど前に乾かしたまま放置してしまった傘で、長きにわたって砂埃や雨風を浴び、かつては透明だった色も、いつの間にか薄く濁ってしまっている。
外に出て、その傘がきちんと実在していることを確かめる。思ったよりもボロい傘だ。ただまあ、これを使う以外の打ち手は思いつかず、オンボロの傘に頭を預けて仕事に向かう。
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