昼食を買いに職場近くのコンビニに行く。
それなりにお腹は空いているが、若干の寝不足ということもあり、あまり腹一杯になるのも避けたい。茶色い弁当に心惹かれるが、その誘惑を振り切って別の食事を探す。一、二分ばかり陳列棚を物色したのち、満を持して海老グラタンを手に取ってレジに向かう。
店員に「温めますか」と聞かれ、「大丈夫です」と答える。熱々の容器を手に持って歩くのは難しいので、大抵はオフィスで温めることにしているのだ。
店員はそのまま、冷たい海老グラタンの上にフォークを置く。
フォーク。
あれ、僕が買ったのはドリアだっけ。ドリアならフォークだが、グラタンならばスプーンで食べるのが妥当なはず。「あ」と小さい声が出てしまう。「フォークじゃなくてスプーンかも」店員はにこやかに笑い、スプーンを出してフォークを引っ込める。
スプーンの選択肢が絶たれた瞬間、やっぱりスプーンかもしれないと思えてくる。僕が買ったのはドリアなのか、グラタンなのか混乱してしまう。しかし僕の後ろには会計を待つ客がどっさりと並んでいる。情報を整理し、即座に決断を下さなければならない。
そうだ。弁当に書かれている文字を読めば良いのだ。ようやくそのことに思い当たり、スプーンの陰に隠れた文字に目を向けてみると、やはり「ドリア」と書いてある。これで良いのだ。
でも。
ドリアとグラタンの違いがわからない。一方がペンネで、他方がライスであることはわかる。ただどちらがどちらかわからない。ちょっと思い出そう。最初に考えたのは、
グラタン≠フォーク
ということだった。こう考えたのは間違いなく事実だが、ただここにはいくつもの罠が潜んでいる。まず、「はじめはドリアだと思って手に取ったが、レジに行く過程でグラタンだと勘違いしてしまった」可能性が考えられる。ドリアからグラタンへの移行の過程で、スプーンとフォークの関係がごっちゃになってしまうなんてことは大いにありそうだ。
さらに言えば、「単に僕が天邪鬼である」可能性もありうるだろう。店員を疑う邪な心が、無意識のうちにグラタン≠フォークという定式を作りあげていたのだ。
そんなことを考えていると、店員が「どっちがどっちかわからなくなりますよね〜」と優しい笑顔を浮かべて、再びフォークを差し出してくれる。
スプーンもフォークも両方もらえばよかったのだ。
コメント