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2024年12月25日

【運営の日記】東京にもルネがあった

先週くらいにブックオフで買った本を開いてみると、一枚のレシートが挟まっている。


大塚英志の『キャラクターメーカー』。同じ著者には『ストーリーメーカー』という本があって、古今東西の物語論を紹介しながら、実際の創作に使えるようにノウハウ化した一冊である。巻末には出てきたノウハウをギュッと圧縮した質問票があって、これに答えるだけで実際に物語を作ることができる実践的な本だ。

大塚英志という人は編集者・マンガ原作者・批評家と様々な肩書きで多くの著作を生み出すスーパー文筆家。難しい理論や時代を切り取って、それをわかりやすくはっきりとした構図で描き出す天才だと思っている(『「おたく」の精神史』という本は本当に面白い。私的な経験を織り込みながら「おたく」なるものを歴史的に跡付けている本で、時代の空気感を生っぽく残しつつ、それが抽象的・理論的に昇華されている様は圧巻である)。

どれも素晴らしい著作だらけなのだが、唯一致命的な難点がある。絶版になった本が多いのだ。新版になったはずの『物語消費論』(東浩紀の『動物化するポストモダン』で参照される一冊。当時流行したビックリマンシールやガンダムのプラモデルには、その背後に「大きな物語」がセッティングされており、私たちはその断片を消費しているのだと分析した)だってAmazonで見たら3,000円くらい。Kindleで手に入るからまあ許せなくもないが、新版が手に入らない状況はどちらにせよ好ましくない。

その例に漏れず、いつからかこの『キャラクターメーカー』も新刊書店で見かけることがなくなっていた。そうした(ちょっとだけ)貴重な一冊をブックオフで見つけたのだから、飛びついて買ってしまうのは自然の性であった。ちょっと前までは確かに星海社新書の棚に並んでいたはずなのに。


一週間ばかり積んであったこの本をパラパラとめくる。次の次くらいに読んでみようとぼんやり考えていると、一枚のレシートが本の間からヒラリと落ちる。

それを見て、僕はびっくりしてしまった。そのレシートには「京都大学生活協同組合 ショップルネ」との文字が確かに書かれているのである。

ショップルネとは、京大の中にある一番でかい本屋である。大学内の本屋にふさわしく専門書が充実しており、何より学生証を持っていけば10%引きで買えるところが素晴らしい。学生時代、何度お世話になっただろうか。

そのルネのレシートが東京の東端にあるブックオフから出てきたのだ。購入日は2020年8月。僕が学生であった時期のど真ん中で、その頃僕は大塚英志の著作をよく読んでいた。そういえば最初に触れた『ストーリーメーカー』を買ったのもルネだった。

真夏の京都で大塚英志を巡ってすれ違った二人が、真冬の東京でささやかな接触を果たしたのかもしれない——。そう考えると、何だか明るい気持ちになったりもする。

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