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2026年1月28日

【運営の日記】わたしたちが光の速さで進めないのなら

わたしたちは宇宙に存在する孤独の総量をどんどん増やしていくだけなんじゃないか

通勤電車で韓国のSF短編『わたしたちが光の速さで進めないなら』を読む。宇宙への移住が実現した世界で、地球に取り残された老女の孤独を描く物語だ。

SFの形をとったノスタルジックお仕事小説だなあ、と思った。


物語は老女の回想がメインで語られる。彼女はかつて宇宙開発に人生を捧げた技術者。当時、「遠くの星に行くことはできるようになったが、移動にかかる時間が長すぎる」という課題があった。彼女はコールドススリープの技術を開発して、ともすれば人生よりも長くなるその移動期間を「冬眠」することで耐え忍ぶ技術を開発していた。その研究にも終わりが見えかかってきた頃、彼女は夫と息子を先に別の星へと移住させ、自分の研究が完成した暁には自分もその星へと移住する手筈を整えていた。

が、研究のフィナーレともいうべき発表の前夜に、家族の移住した星へと向かう連絡船が廃止されたとの連絡が入る。実はその少し前に、宇宙移動に関する革新的な技術が開発されていたのだ。単に「長い距離を移動する」のではなく、「一気に異星へとワープする」技術。そのチートのような手段の前に、彼女の研究は一気に陳腐化してしまう。

彼女にとっての不幸は、そのワープは「遠くならどこへでも行ける」ものではなく、「特定の場所に一気に移動する」ものだったことだ。結果として、過去の技術でなんとか移住可能だった星々が、コストがかかりすぎることを理由に「遠い場所」になってしまう。そして彼女は地球にひとり孤独に取り残されることになる。


この小説のキモは、自分が人生を捧げてきた仕事が、避けようもない時代のうねりによって陳腐化し、速やかに「過去」となってしまう点にあると思う。毎日手作業で少しずつ進めていた仕事が、ほとんどバグともいうべきワープ技術によって塗り替えられてしまう。連続的でアナログ的な営みが、突然単発的でデジタル的な枠組みにとって変わられてしまう。

ノスタルジーとは、こうしたパラダイムシフトが起こった後の時代において、過去となった=不可視化された領域を見つめる素振りのことを指すのだろう。たとえば何日も徹夜をして書き上げたコードが、今では一年目のエンジニアがたった一つのプロンプトで完成させてしまうような現代においても当てはまる感傷のような。


老女が地球にひとり取り残されるのは、若かりし頃の熱量=仕事をノスタルジックに振り返ることと強く紐づいている。というよりも、ノスタルジーの呪縛が現実的なアクションとして可視化されるのが、この老女の孤独なのである。この小説は、進歩というものがフロンティアを押し広げつつ、それに応じて否応なしに生じる間隙を具体化した物語である。

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