夜、アマプラを物色していると、『アタラント号』が入っていることに気づき、すぐさま視聴を開始する。ジャン・ヴィゴの作品は数年前に大学の図書館で『新学期・操行ゼロ』を見たきりなのでかなりワクワクする。
その時の視聴環境はお世辞にもいいものとはいえず(何せ小さなモニターにDVDプレイヤーが繋がれている程度のものだ)、そのくせ印象的なスローモーションに心躍った記憶があるので、沸々と期待が膨らんでいく。
しかしいざ映画が始まってみると、なかなかどうして集中ができない。確かに古い映画だし、字幕もイマイチなものだ。とはいえかの名高い『アタラント号』だし、家の視聴環境は六畳のアパートからすると申し分ない。
とすると、これは自分に問題があるような気がする。そういえば仕事を途中で放り出して帰宅したし、『日記の瞬間』でもやりたいことがたくさんある。要するに気が散っているのだ。映画を見たり本を読んだりする以上に、実は手を動かしたいと心のどこかで思っているのかもしれない。
なんだか身体全体が忙しなく震えているような感覚を抱き、気を休めるためにお酒を飲もうと思う。部屋の隅から芋焼酎を取り出し、結婚式の引き出物で貰ったグラスに注ぐ。数日前に空けた余りのソーダで焼酎を割って、ちょっぴり気の抜けたその液体を流し込むと、お腹のあたりがぱっと華やぐような気分になる。
そうして再び画面を見てみると、変わり白黒の荒い映像が数分前とは打って生き生きとした運動に満ち満ちている。やっぱり天才だ……と感嘆しながら、どんどんお酒に手が伸びていく。
気がつけば二杯ばかりを飲んでしまう。映画の残り時間を確認するとあと30分弱。本当は全部見てしまいたいが、心地よい眠気がじわじわと迫ってきているので、別に無理をする必要もないだろうと思う。歯を磨き、寝る準備を整える。
さあ寝るかとプロジェクターのスイッチをオフにしようとすると、視界の片隅に半分くらい氷が入ったグラスが見える。コンビニで買ったロックアイスだから勿体無い。そういえば割り剤の炭酸水も、あと一杯分くらいのお酒を作る余裕がある。このまま放置したら、いつの間にかただの水へと成り下がってしまうだろう。
貧乏根性に尻を叩かれ、もう一杯分だけお酒を作ることにする。
しかしどうだろう。僕に残されたのは眠気とほろ酔い、冷たい水を飲みすぎたことによる腹痛ばかり。若き天才が作り上げた画面も、僕の体調不良の前ではその輝きを失ってしまう。トイレに行き、申し訳程度に再度歯を磨いてベッドに倒れ込むと、あと十分ばかりで終わるその映画を見納めることもできずに眠りに落ちる。
お酒を飲んだせいで悪い夢を見た。部屋に小さなゴキブリがウジャウジャといる。ゴキブリ駆除の薬剤を買いに近所の個人商店に足を運ぶと、態度の悪い店員に「そんなの意味ないよ」と言われてしまった。
コメント