わたしは雅美くんが大好き。優しくて細長くてかっこいい雅美くん。雅美くんのそばにはわたしがいる。わたしと雅美くんが一緒にいることがゴールだから、もうここから先に目指すべき場所なんてない。わたしはベッドの脇の引き出しからP226を取り出した。そのとき2人の顔は、他の何かが起こることなんてありえないほど近く、キスは赤く、焦げ、甘く、甲高く、ぬるっとしている。銀色の銃身を口にくわえて、嚙みしばりながら引き金を引く。弾丸が銃身を離れ、延髄を通り抜ける。脳味噌の破片が壁のポスターにへばりつく。先月に雅美くんと観に行った映画のポスターだ。睡眠時間を削らないといけないけど、起きる前にそうしたほうがいい。わたしは雅美くんにどうしようもなく恋をしていた。生きているのも死んでいるのもほとんど同じように。
8時に目が覚めた。わたしのそばには誰もいない。野で咲いていたいと願うなら、充分に乱暴でなくてはならない。起き上がって、財布とスマホとお薬手帳をカバンに入れ、パジャマのまま家を出た。 30分バスで運ばれて、1分歩いて、10分待って、1分話して、10分待って、150錠の向精神薬を手に入れた。この薬でわたしはすっかり変わってしまう。心なんて本当は無いのだろう。心はきっとファンタジーだ。子どもがペガサスを夢見るように、わたしは心の夢を見た。15歳から精神科に通院して、今日で7年と少しになる。 午後はカフェ・コレクションでハムチーズサンドを食べた。
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