縁あってこの場で2024年6月16日の日記を書くことになった。普段、日記をつけることはしていないので緊張している。表情が硬い。硬すぎる。S字フックが背筋を伸ばすくらい硬い。大丈夫か?
友人たちと旅行中である。旅先のゲストハウスで目を覚まし、昨夜の喧騒が嘘のように静かな空間から、一日が始まった。
そのゲストハウスは山道を登ったところにあり周辺市街を一望できるほどの眺めを持つほどの標高に位置する。周辺に民家は無く、周りからは微かに鳥の声が聴こえてくる。普段、寝落ちして付けっ放しにしていたテレビから聞こえる通販番組のやかましさで目覚める私にとって、これだけ静かな朝はそれだけで身が引き締まる気持ちであり、旅行中であるという高揚感も相まって妙な緊張感があった。
少しでも緊張をほぐすべく、持ち込んでいたカップ麺を山の空気と共にいただく。昨日降っていた雨は上がっており、晴れてこそいないものの澄んだ山の空気はその眺めとともに心を落ち着かせてくれ、ここから転がり落ちたら死ぬという緊張をひとときでも忘れさせてくれる。カップ麺はカップ麺でしかなく、特に普段より美味しく感じるということはなかった。それ故の安心感でもある。が、山の中ということもあり蚊が多く、安心と引き換えに足には痒みスポットが無数にできた。今度からはちゃんと屋内で食べよう。
ゲストハウスの片付けをし、旅を再開した。
レンタカーを運転し、山道をグングン上り、やがて下る。慣れない道を運転するのは得意ではない。しっかりと緊張しながら安全運転することに努めよう。油断は厳禁だ。
そんな調子で運転しているので、旅の車中でのことはほとんど詳細に覚えていない。かなりもったいない気がするが、それもまた旅である。道中、歩道橋に掲げた横断幕に「ピザ窯 大型遊具」という見慣れない単語のペアがあった。その日すべての予定を無視しても良いと思えるほどの興味が湧いたが、友人たちはそうもいかない。一人の興味のために輪を乱すわけにはいかなかった。寄り道してでも真剣に向き合うべきであったと後悔している。
昼食はハンバーグにするか寿司にするか、観光は風景とアクティビティのどちらを重視するか。限られた時間の中ではすべてが選択の土俵の上で競い合っている。
そう、旅は選択と後悔の連続で成り立っている。無数の選択肢の中から選び、選ばれなかった選択肢に思いを馳せ後悔する。次こそは後悔の無い選択をと息巻くが、結局、選択するということには後悔が伴う。だがこの後悔は明日を生きていくための糧になると信じている。私が後悔を拭うその日まで。私が遂げられなかったとしても、別の誰かが遂げてくれるに違いない。それは祈りにも似た感情だ。その祈りの連続が生命である。私の祈りの前には別の誰かの祈りがあり、私の祈りの先にはまた別の誰かの祈りがある。生命の誕生から続く祈りの潮流に私の祈りも流そう。この祈りもまた誰かが叶えてくれると信じて。旅はそんなことを思わせてくれる。
やがてレンタカーを返却したら旅も終わり、友人たちと別れてそれぞれの帰路へ。
身体の疲れとは裏腹に心は興奮冷めやらぬ様子。HP(ヒットポイント)は今にも底を尽きそうなのに、まだ残っているMP(マジックポイント)を消費して辛うじて立つことができている状態。帰りの新幹線はいつもより揺れが大きく感じた。
次第に心の熱も落ち着き、MPが尽きたことに気が付く。目を閉じて回復に努めよう。きっと幸せな夢を見ることができるはず……
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