朝、最寄り駅近くの信号を待っていると、黒装束に身を包んだ男性が目につく。単に黒い服というのではなく、光沢のあるブカっとしたパンツと綺麗めなジャケット姿で、長い髪を後ろで縛っている格好はモードな雰囲気。
普段から同じ時間の信号を渡り、同じ時間の電車に乗っているが、彼の姿を目にした記憶はない。おそらくは毎朝の通勤・通学ではなく、何らかの事情で僕の住むちょっとやさぐれた街にやってきたのだろう。
ごくごく素朴に「格好良いな」と思う。自分のスタイルを持っている人は素敵だ。特段ファッションにこだわりのない平々凡々の労働者である僕からすると、彼のような人間はとても眩しく見える。
信号が青になる。いつも通りの時間に、いつもと同じく信号を渡る。労働の始まりが着実に近づいていることを考え、憂鬱な気分になる。おそらくは今日も怒られが発生し、成果の少ない自分に失望の眼差しを向けられることだろう。
と、少し視線を落として信号を渡っていると、あのモードな男性が駅に向かって全力疾走をしている姿が目に入る。
めちゃくちゃ不恰好な走り方だ。足はほとんど上がっていないのに、足以外の部分がやたらと激しく動いている。これが前進することを目的とした運動だとしたら、ほとんど無駄だらけ。
洗練と非洗練が同居するような、おしゃれだけどダサいような。何だか憂鬱な気分が少しばかり晴れるような気がした。


コメント