前々日のことですが。
Bunkamura ル・シネマで『ナミビアの砂漠』を見る。公開から一月近く経っているので、客入りは半分にいかないくらい。
いやあ。素晴らしい映画だった。苛立ちの理由が物語の中で回収されないまま、ただ心理の発露としてアクションに転化されているところが最高。映画の中でなぜ怒っているのかを問うのは野暮だと思っているので、ただムカムカ・イライラしていることを映像で見せてくれるのが好き。
【以下ネタバレ含む】
たとえば映画の中盤、新しい彼氏と同居を始める場面。バチンと音がしてカナが目を覚ますと、彼氏のハヤシが床を叩いている。「虫がいるからカナのために殺してあげようと思った」と言うハヤシの行動が気に障るあの感じ。あのズレ方。その微妙な心理のズレが、カメラの配置を巧みに操ることでバチっと提示されている。あまりに映画がうまい。
あと素晴らしいと思ったのが、カナとハヤシが取っ組み合いの喧嘩をする場面。最初は向かい合う二人が切り返しで示され、なんとも深刻な感じ。このまま一方が一方を殺してしまうのではないかと心配になってしまう。
しかし物語も最終盤に近づくとその喧嘩がどこか他人事のお遊戯みたいになってくる。クッションで叩いたり、相手の腰にしがみついたりする運動が遠くから俯瞰で撮られるようになり、そのおかげで喧嘩の場面がコントのような感を呈すようになる。この微妙なニュアンスの違いを、カメラの位置で見せてしまう。いやあ。なんつーセンスだ。
まあ結構度肝を抜かれてしまった。そもそも一つひとつのショットの繋ぎは抜群にうまい。いやあ。すごいなあ。
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