神奈川近代文学館で開催されている「安部公房展|21世紀文学の基軸」へ。
安部公房展──21世紀文学の基軸
今年生誕100年を迎えた安部公房(1924~1993)。その創作活動は、学生時代の詩作から出発し、『壁』『砂の女』などの小説や「友達」などの戯曲、写真、さらに演劇グループ・安部公房スタジオによる総合芸術の追究と多岐にわたりました。自明のはず...
みなとみらい線、元町・中華街駅から歩いて10分あまり。小さな山のような場所に位置する「港の見える公園」の最奥にこの文学館はある。
安部公房の人生を辿るように、幼少期から晩年に至るまでの資料が並ぶ展示室。その多くは自筆の原稿で、マスメいっぱいに記された独特の筆跡が特徴的だ。多くはタイトルや作者名のところにフォントのサイズを指示するメモが残されており、自分の作品を最後までコントロールしようと試みる安部公房の姿勢が垣間見える気がする(編集者が残したメモだったら検討はずれだけれど)。
創作ノートも面白い。理知的に組み立てられた作風にふさわしく、人物関係やプロットが整理された形で記されている。第三者が作品について解説しているような完成度で、建築物の図面を見ているような感覚にもなる。
ただ何よりも面白かったのは、これもかなりの数展示されている手紙。安部公房というと、頭脳明晰、悪く言えば斜に構えたところがある人なのかと思っていたが、他人にあてた言葉の優しさというか、配慮の綿密さには驚いた。「しばらくご無沙汰しており」「お伺いしようと思ってはいたのですが」といった「素朴な」言葉が、素朴ならざる意味をはらんでくるのが安部公房の作風だと思っているのだけれど、実際に彼が残した手紙にフィクションめいた衒いのようなものは全く見受けられず、やはり作家としての安部公房と人間としての安部公房は全く異なるのだなと感じたりした。
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