快晴。最高気温28度。4月とは思えぬ暑さ。洗濯日和。
洗濯機が鳴る。脱水されてぎゅうぎゅうに集まっている衣類の中から、白いTシャツを一枚引っ張り出す。10年ほど前にライブハウスで購入した、フラワーカンパニーズのTシャツ。手洗いしてから洗濯機に入れたが、腹の辺りに大きな茶色いシミが付いたままだ。
このシミが付いたのは、一昨日の夜。友人たちと場末の居酒屋で飲んでいたら、突然、酩酊した若い男が我々の席に向かって突っ込んできた。一瞬の出来事だった。そのスピードたるや、酔っぱらい界のウサイン・ボルト。泥酔ボルトは突っ込んだ勢いでテーブルの上にあったすべてを薙ぎ倒し、ビール、モツ煮の汁、刺身用の醤油、その他あらゆる汁という汁が、正面の席にいた私にスプラッシュした。 最低の出来事は、最高の酒の肴である。その夜、我々は延々とその災難について語り合い、悪態をつき、大いに笑った。面白ければそれでよかった。
しかし、酔いも興奮も冷めた今、こうしてシミと対峙すると、自覚が芽生えてくる。割と酷い目に遭った。
棚の奥から漂白剤を取り出し、洗面台にぬるま湯を溜め、Tシャツを沈める。今まで漂白剤でうまいことシミが取れた試しがない。しかし、これしか方法を知らない。
昔は、シミを付けてしまったら、実家の近くに住む祖母の元へ駆け込んでいた。祖母に預けると、服のシミが跡形もなく消えた。特別な方法によるものなのか、地道な作業によるものなのか、よくわからない。今は離れて暮らす祖母。たまに電話で話すが、なぜかそういう「継承」はうっかり聞きそびれてしまう。
しばらくつけ置きして、再度手洗いする。見てみると、意外にもシミが取れていた。やってみるものだ。
死の淵から這い上がったフラカンTシャツは、生きててよかったと叫びそうな白さで、強い日差しの下、急速に乾いた。
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