意図せず五時くらいに目が覚めてしまったとき、青黒い光がほんのり差し込むカーテンの向こう側から激しい雨の降る音がしていたようなおぼろげな記憶が残っている。二度寝をして家を出る時間になると、その印象を引きずったまま傘をさす準備をして扉を開ける。
確かに曇り空だが、雨は降っていない。とはいえ手に持った折りたたみ傘をリュックサックにしまうのが面倒で、そのまま歩いて駅まで向かう。
二分ばかり歩いてから、音楽を聞こうとイヤホンを装着して四つのポケットからスマホを探すが、どこにもスマホが見当たらない。そういえば部屋の机に置きっぱなしにしているような気がする。あまり時間はないが、スマホなしではやはり不安だから、駆け足で部屋まで戻る。
右手に傘、左手に財布(小銭入れの中に鍵が入っている)を持って玄関扉の前に対峙する。でもどうやってこの扉を開けたらいい? 小銭入れのチャックを開けるためにはもう片方の手が必要だが、今は折りたたみ傘を持っている。手持ち無沙汰の小指を使って金具に触れてみるも、チャックが開く見込みは期待できない。
時間がない。焦って扉を開ける段取りがわからなくなる。GW明けに遅刻をするのは勤勉な労働者失格だ。
ひらめいた。傘を置けばいい。汚れた地面に傘を置いて、いつも通りに扉を開ける。
スマホは机の上になかった。慌てて探し回り、ようやく枕の下にその姿を見つける。一本電車に遅れたが、ギリ遅刻せず。
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