ちょっくら早く仕事を切り上げて、家近くのドトールへ。読みかけになっている『ホテル・ニューハンプシャー』の続きを読む。
もう下巻も後半。急がず時間をかけてじっくり読んできたから、愛すべきベリー家とのお別れが近づいてくるのが寂しい。なんだか朝ドラみたいだなと思う(朝ドラをまともに全部見たことはないが)。
ふと、スマホの充電が残りわずかになっていることに気がつく。このスマホは老犬ソローのごとくボロボロなのだ(『ホテル・ニューハンプシャー』を読むのだ)。ガサツに扱われ、ひび割れだらけの画面。五分のうち四分が圏外となる軟弱な電波受信能力。カイロが冷めるより早くキレるバッテリー。
ほとんど触っていないのに、充電がもう残り数パーセントとなったスマホを延命させなければならない。今日はちょっと感傷的だから、音楽を聴きながら夜道をぶらぶらと歩いて帰路につきたい。
リュックサックからモバイルバッテリーを取り出し、スマホに差し込む。しかしこの弱った電子機器は、充電すらもまともに行えないのだ。ライトニングの端子を何度も差し込むが、一向に反応を示さない。時折ピクッと震え、ようやく充電が行われたかと期待させるが、次の瞬間には差し込まれたケーブルを無視している。
角度を変え、モバイルバッテリーの置き場所を変え、ケーブルの巻き方を変え、幾度も充電口に端子を差し込む。しかし結果は変わらない。数秒間の充電と、一分間の沈黙。そのわずかな瞬間に蓄えた充電も、沈黙の一分間で消費されていき、一向に充電は回復しない。
そんなことをしていると、いつの間にか読書への集中はとうに失われている。僕がいるのはニューヨークではなく、駅前のドトールだ。Nintendo Switchをプレイする男性の隣で、スマホにコードを差し込み続ける男の姿。気がつけばアイスココアは水っぽい液体へと変じている。
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