日曜日は休み明けの仕事始まり。布団のなかでゆっくりと首を動かしてみる。ここ数ヶ月悩まされていた首痛が、10月に入ってから少しずつ、日を追うごとに楽になってきた。久しぶりに、ゆったりとした気持ちで弁当を作る。雷こんにゃく、ピーマンのおかか和え、油揚げの生姜焼き。映えない色味の地味弁だが、まあこれで十分だ。
清掃当番なので、普段より早くうちを出る。大学がすぐそばにあるので、平日は朝から人の多い通りだが、今日は日曜日なので人もまばら。顔に当たる風が、ひんやりとして気持ちがいい。
日曜日の朝は、一週間のうちでもいちばん人員が少ない。事務所も、営業部が休日なので、ひっそりとしている。以前は、世の中の大半が休みの日に仕事はじめなんて、とうらめしく思うこともあったが、年齢を重ねた今は、こんなふうに少しずつエンジンをかけて温めていくようなのんびりとした朝に、心地よさを感じる。数人でサッとフロアの清掃を済ませ、朝礼。雑誌出しもない休配日だが、なんせ最少人数なので、それぞれがてきぱきと準備をして、定位置につく。私は開店からカウンター時間が入っていたので、ファックスで届く新刊案内の束をガサっとつかんで、レジに入った。この日、私が最初に受けたお客様は高齢の女性のお客様。レジで向き合った瞬間、互いに「あっ…!」と声が出る。数日前「具合が悪い」とカウンターでお申し出になり、事務所にお連れして休んでいただいた方だった。その後の無事が気になっていたので、元気な様子で御礼を伝えに来てくださったことがとてもうれしく、安心する。思い返してみるとその日、カウンターに立っていた私は、エスカレーターで上がってきてレジの前を通り過ぎたこのお客様と、ちょうど視線が合った記憶があった。その時は、特に顔色が悪いだとか、別段異変を感じることはなかったのだが、なぜか強い印象が残り、それからしばらくして、そのお客様はレジにいらして「具合が悪い」とお申し出になった。カウンターに立ち、いらっしゃるお客様をみていると時折、特に変わった様子がなくても、なぜか強い印象を受けたり、気になってしまう人がいる。なにもないことが大半を占めるが、こんな風にあとから「そういえば…」ということが、これまで何度か、あった。別に霊感体質でもないし、そういった体験もしたことはないけれど、長く同じ場所から眺めるということは、こういうことなのかもしれない。パッと目が合っただけでも、受け止める情報量が多い、というか…。
そんなことを考えているうちに、お客様の足にも勢いがついてきた。連休の中日、普段の日曜日よりもハイスピードで、賑わいが増してゆく。
「Tさん、息子さんと一緒に来ていますよー。いま児童書の方、行きました」 バックルームでISBNコードの入力をしていると、カウンターから戻ってきたSさんが教えてくれた。Tさんは同い年で、すでに退職しているが、在職中は頼れる「先輩」だった。会うのは随分と久しぶりな気がする。息子のKちゃんはもう小5。もう気安く「Kちゃん」なんて呼べないくらい、大きくなっている。次に会う時は身長が追い越されていそう。元同僚、今は共通の友人でもあり福岡で本屋を営むTの話題にはじまり、たがいの健康を気遣い合う。Tさんの持つカゴには何冊もの絵本と、「母の友」が入っていた。
あっという間に休憩時間。弁当を食べながら、昨日「親密さ」という映画を観た際に買った「ハッピーアワー」という映画のパンフレットを読む。以前、映画館で観た後に買おうとしたものの売り切れており、購入できなったものを数年越しで、やっと。今日はこの「ハッピーアワー」の上映が16時からある。仕事あがりに観に行きたかったが、どう頑張っても行けない時間。いくつもの印象的なシーンを脳内で再生しながら、売り場に降りていく。
連休の中日は、はやい。ピークは14~15時だった気がする。レジのヘルプを求める呼び鈴が何度も鳴り、その度に手元の仕事を止め、小走りでレジに向かう。15時を過ぎるとようやく流れも穏やかになり、「夕飯何食べよう?」と考える余裕も出てきた。
ふと時計を見ると、16時半を過ぎていた。「ハッピーアワー」はもうはじまっている。映画には間に合わないが、定時には上がってちょっと買い物に寄って、鶏むねを茹でて簡単なフォーを作って食べることにした。
この後21時半まで、時計を見るたびに、この街で上映されている「ハッピーアワー」に想いを馳せることとなる。
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