ヘトヘトで家に帰る。そのままベッドに倒れ込みたいところだが、最後の気力を振り絞って、リュックサックだけ片付けると、ニットキャップを被ったまま米を炊こうとキッチンへ。
前夜に使ってそのまま放置していた炊飯ジャーを洗い、シンク下の引き出しにしまい込まれた生米を一合分計量カップで測る。その容器をジャーに入れようと思ったとき、悲劇が起こった。
計量カップがキッチンの縁にあたり、生米をぶちまけてしまったのである。
硬くすべすべとした表面の米は、ワックスがけされた床を見事なまでに滑っていき、キッチン前の一帯を覆うほどに散らばっている。調味料やらお酒が入った引き出しの中にもその小さな粒は散乱し、隙間という隙間をびっしりと覆っている。
絶望的な気持ちになった。仕事であったり、人生であったり、よくわからないが何か曖昧なものに対してぼんやりとした疲労を覚えた今日という一日を締めくくるのが、こんな仕打ちなのか。もういっそ散らかったままにして、すべてを投げやりのまま眠ってしまいたい。
とも思ったが、腹が減った。この空腹を満たすためにも、なんとかして米を炊かなければならない。そのためにも、散らばった米を再び拾い集めなければならない。
潤んだ目で、片付けを始める。
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