2024年5月5日。俺は今、大阪にいる。
話は遡って去年。俺は初めて東京コミコンへ行った。 『コミコン』は『コミック・コンベンション』の略で、1960年代にアメリカで誕生して以来、世界中で行われているイベントの事を指す。
誕生した当初は地元のコミックブック愛好家の交流会といった雰囲気だったそうだが、それから60年経った現在では『コミコン』と言えばマーベルやDCなどのアメリカン・コミックスを原作とした映画や大作SF映画・ドラマの出演者、すなわち「ハリウッド・スターに直接会えるイベント」として認知されている。
日本では2016年以降、東京・大阪の二都市で開催されており、長らく北海道在住、かつ年末年始にしかまとまった休みのない仕事をしていた俺にとってはまったく縁のない話で、参加する事など夢のまた夢だった。
状況が変わったのは2022年7月。33歳、初めての上京。
“本腰を入れて音楽活動をする為の上京”というのが建前だったが「これで今まで我慢していたイベントにも参加し放題だぜ!」という下心も多少、いや40%くらいはあった。
そういうわけで満を持しての初・東京コミコン。それが2023年の12月の事だ。
コミコンの名物と言えば、ハリウッド・スターとのツーショット撮影だが、実を言うと俺はこれに関してはずっと否定的だった。
なぜかというと、撮影チケットが1枚あたり2〜3万円する。そして撮影時間はたったの数秒。噂によると瞬きをしている間に終わるらしい。
ラスベガスのカジノより凄まじいスピードで現金が溶けていくわけだ。なんて刹那的な金の使い方だろう。それなら俺はそのスターのフィギュアをホット・トイズで買うね!
……と、ここまでゴチャゴチャ書いたが、結局俺はマッツ・ミケルセンとの撮影チケットを買い、撮影をして大感動。
「3万円でマッツと撮影出来るなんて安すぎだろ…」とあっさり意見を翻した。柔軟と言うか、信念がないと言うか、まあなんとでも言いなさい。
そして話は今朝に戻り、2024年5月5日。俺は今、大阪にいる。
俺にとって2度目のコミコンに参加するために、東京から夜行バスに乗ってはるばる大阪までやってきたのだ。
入場料、撮影チケット、東京からの交通費、ホテル代、食費etc…。もはや3万円どころじゃ済まない金をかけて、スターとの撮影のためにここにいる。自分でも驚くほどの手のひらの返し具合、返し過ぎて手首がちぎれるんじゃないか。
朝も早よから入場の行列に並び、ステージで行われるイベントを見て、ご飯を食べたり、グッズをみたり、いちいち行列に並びながら過ごしている間に撮影会の時間がやってきた。おお、いよいよか。緊張するぜ。
撮影会場に行くと、そこは既に黒山の人だかり。すごい、みんなどこに隠れていたんだ。日々の生活の中じゃアメコミ映画のファンなんて全然巡り会わないぜ。
金属探知機でボディチェックをしたのち、それぞれの待機列に誘導される。並ぶ、並ぶ、また並ぶ。コミコンは並ぶイベントなのだ。
そして動き出す列。撮影ブースから聞こえてくる陽気な音楽。微かに見えるフラッシュの光。ついに撮影が始まったらしい。
内心かなりドキドキしているが平静を気取る。ここにいる皆んなそう。全員平気そうなフリをしている。そう考えると非常に面白い。隙を見せると喰われてしまうのか、コミコンに棲む魔物に。
列はあれよあれよと言う間に短くなり、とうとう撮影ブースに到達した。扉をくぐる。そこには信じられないスピードでファンサービスをし続けるノーマン・リーダスとマッツ・ミケルセンが!眼前に広がるリアル・デス・ストランディング!
……。
ここで俺の記憶は途絶えた。気づいたら撮影は終わり、印刷された写真を受け取っていた。
ハッと我に帰り写真を見る。
そこには「北欧の至宝」と「伝説の配達人」に挟まれた、「極東の内股男」が写っていた。
蘇る記憶。
そうだ、撮影前にマッツの靴と俺の靴がぶつかってしまったんだ。それで「ソーリー!」と言いながら右足を内側に寄せたんだ。そしてその結果がこの内股だ。
なんて格好のつかないポーズだろう。ドリアン戦でサンチンの構えをとる末堂厚をめいっぱいひ弱にしたようなポーズだ。俺の心の中の愚地独歩が泣いている。
いや、それにしたってこれは素晴らしい体験だった。肝心なのは中央の内股男ではなく、その隣で輝くスター2人。スターと同じ画角に収まっていることが重要で、それだけで価値がある行為なのだ。
これで6万円なんて、安いも……え!6万円!?
そう、6万円だ。大阪コミコン2日目に急遽発表されたノーマン&マッツとのグループショットの価格。それが6万円。
これはまったく予想外の出費だった。なぜなら俺は昨日、ノーマンとの撮影を既に済ませているからだ。この時点でもう3万円払っている。
それなのに完全にコミコン・ハイになって、6万円のチケットを追加で買ってしまったのだ。正直言って予算オーバー。大幅にオーバー。欧陽菲菲もびっくりのオーバー加減。
でも考えてみてほしい。俺は2人のハリウッド・スターに、秒速1万円のギャラを払って、人生という名の自主制作映画に出演してもらった、と。そう考えたらどうだろう?安すぎる。ありえない。破格だ。
「オタクは金がかかる」とよく言うが、こう言う事なんですよ。明日からの晩御飯はアジシオをおかずに白ごはんですよ。でも、それで良いんです。オタクは楽しいからね。
という感じで俺の大阪コミコン2024は終わったのである。
以降、特記事項無し。
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